読みもの
親が昔の話をしたがらないとき
親に昔の話を聞こうとしたら、「話すことなんてないよ」「昔のことはもう忘れた」と返されて、それきりになってしまった。そこで聞くのをあきらめてしまう家族もいます。けれども、その言葉は話したくないという意味だけとは限りません。照れや遠慮が隠れていることもあれば、何を話せばよいか分からないだけのこともあります。この記事では、親が昔の話をしたがらない理由の考え方と、そう言われたときの受け止め方、無理に聞かずに進める方法、話しやすい話題からの入り方を順に紹介します。
「話すことはない」の裏にあるもの
親が「話すことなんてない」と言うとき、その理由はひとつではありません。改まって聞かれることへの照れ、子どもに手間をかけさせたくないという遠慮、思い出したくない出来事があること、そして「自分の人生は人に話すほどのものではない」という思い込みが、重なっていることもあります。言葉は同じでも、理由によって向き合い方は変わります。
理由を本人に問いただす必要はありません。言ったときの表情や声の調子、どの話題で口が重くなったかを見ていると、おおよその見当がつきます。笑いながら手を振るなら照れや遠慮、急に黙ったり話を変えたりするなら、触れたくないことがあるのかもしれません。まずは、断られたことを責めずに受け止めます。
- 照れ・遠慮・つらい記憶・思い込みが重なることも
- 理由は問いたださず、表情や話題から見当をつける
- 断られたことを責めない
照れと遠慮には、聞く理由を伝える
照れや遠慮が理由のときは、なぜ聞きたいのかを伝えると話しやすくなります。「ちゃんとした話でなくていいから、子どものころのことが知りたい」「孫に聞かせたいから教えて」と、聞く側の気持ちを言葉にします。親は、自分の話を待っている人がいると分かると、話してもよいと思えるようになります。
「自分の人生はたいしたことがない」と考えている親には、大きな出来事より、毎日の暮らしを聞きたいのだと伝えます。通った道、食べていたもの、家の手伝いといった当たり前の話こそ、子や孫にとっては知らないことばかりです。「そんなことでいいの」と言われたら、「それが聞きたい」と答えれば十分です。
- なぜ聞きたいのかを言葉にする
- 「孫に聞かせたい」は遠慮をほどく理由になる
- 大きな出来事より毎日の暮らしを聞く
つらい記憶には触れずに待つ
病気や別れ、苦しかった時期など、思い出すのがつらい出来事を抱えている場合があります。話題がそこに近づいたとき、親が黙ったり話を変えたりしたら、追わずにほかの話に移ります。「話したくないことは話さなくていいよ」と最初に伝えておくと、親は安心して、話せるところだけを話してくれるようになります。
つらい出来事は、時間がたってから本人のほうから話し出すことがあります。そのときは口を挟まず、相づちだけで最後まで聞きます。慰めの言葉を急いで探したり、感想を言ったりする必要はありません。「話してくれてありがとう」と伝えれば足ります。話を聞いたあと、親の気持ちが沈んでいるようなら、その日は明るい話題で終えるようにします。
- 黙ったり話を変えたりしたら追わない
- 「話したくないことは話さなくていい」と先に言う
- 本人から話し出したら相づちだけで聞く
話しやすい話題から入る
人生の話を正面から聞くより、身近な話題から入るほうが、話は出てきやすくなります。食卓の話はその代表です。「子どものころ、家でよく出たおかずは何だった」「お正月には何を作っていたの」と聞くと、台所の様子や家族の顔ぶれ、季節の行事まで、話が広がります。好きだった食べ物は、楽しい記憶と結びつきやすい話題です。
昔の暮らしの道具や遊びも入りやすい話題です。ちゃぶ台、かまど、銭湯、駄菓子屋など、いまでは見かけなくなったものを聞くと、親は説明する側に回れます。自分のことを語るのではなく、昔の様子を教えるという形になるので、照れが少なくて済みます。説明の途中で、その人自身の思い出がふと混じってきたら、そこを少しだけ掘り下げます。
- 家でよく出たおかず、行事の料理から聞く
- 昔の道具や遊びは「教える」形で話せる
- 説明に混じった本人の思い出を少し掘る
無理に聞かず、間をあけて続ける
一度断られても、そこで終わりにする必要はありません。間をあけて、別の話題や別の場面で聞いてみると、前とは違う反応が返ってくることがあります。大切なのは、聞くことを義務にしないことです。会うたびに何かを聞き出そうとすると、親は構えるようになります。ふだんの会話の中で、ときどき昔の話に触れるくらいの間合いが続けやすいものです。
親が少しでも話してくれたら、その話を覚えておき、次に会ったときに「この前のあの話、もう少し聞かせて」と伝えます。自分の話が覚えられていると分かると、親はもっと話そうと思えるようになります。聞いた内容を短い文にまとめて見せたり、家族に伝えたりするのもよい方法です。話が誰かに届いていると感じられることが、次の話につながります。
- 一度断られても、間をあけて別の話題で
- 聞くことを義務にしない
- 聞いた話を覚えていて、次に続きを聞く
- まとめて見せると次の話につながる
よくある質問
何度聞いても「忘れた」と言われます。本当に覚えていないのでしょうか。
「忘れた」は、思い出すきっかけがないという意味のこともあります。漠然と聞かずに、写真や昔の道具、地名など具体的な手がかりを示すと、思い出す場合があります。物忘れが続いて心配なときは、聞き方の工夫とは別に、かかりつけの医師など専門の人に相談します。
話したくないと言われた話題は、もう聞かないほうがよいですか。
本人が話したくないと示した話題は、こちらから持ち出さないのが基本です。ただ、気持ちは変わることがあります。ほかの話を重ねて信頼が深まると、本人のほうからその話に触れることもあります。そのときは急かさず、話せるところまで聞きます。
親が話したことを、ほかの家族に伝えてもよいですか。
伝える前に本人に一言確かめます。「この話、みんなにも聞かせていい」と聞いて、了解をもらってから伝えます。家族の中でも知られたくない話があるかもしれないので、伝えてよい話とそうでない話を分けておくと、親も安心して話を続けられます。
親が昔の話をしたがらないのは、話すことがないからではなく、照れや遠慮、思い出したくない記憶、自分の話に価値がないという思い込みがあるからかもしれません。断られても責めず、聞く理由を伝え、食卓や暮らしの話題から入り、間をあけて続けていけば、話せるところから少しずつ話してもらえるようになります。