読みもの
親の誕生日に「話を聞く時間」を贈る
親の誕生日が近づくたびに、何を贈ればよいか迷う。服や食器はもう十分にあり、本人に聞いても「何もいらない」と返ってくる。親が年を重ねるほど、物の贈り物は選びにくくなります。そんなときの選択肢のひとつが、親の話を聞く時間を贈ることです。誕生日のひととき、親を主役にして、子どものころや若いころの話をじっくり聞きます。この記事では、その考え方と、事前の伝え方、当日の段取り、聞いた話を本の形にして返す方法、毎年続けていく進め方を紹介します。
物ではなく、時間を贈るという考え方
「何もいらない」と言う親も、子や孫と過ごす時間まで断ることはそうありません。話を聞く時間を贈るというのは、誕生日のひととき、親を主役にして、その人の昔の話をじっくり聞くことです。ふだんの会話では、親は聞き役や世話役に回りがちで、自分の話をゆっくりする機会は意外と持てていないものです。
この贈り物のよいところは、受け取る親だけでなく、贈る側にも残るものがあることです。聞いた話は、親がどんな子どもで、どんな若いころを過ごしてきたかを知る手がかりになります。物は使えばなくなりますが、聞いた話は書き留めておけば、家族の中で何度でも読み返すことができます。
- 誕生日のひととき、親を主役にして話を聞く
- 親が自分の話をする機会をつくる
- 聞いた話は書き留めれば家族の手元に残る
事前に伝えておく
当日いきなり「今日は話を聞かせて」と言うと、親は戸惑います。誕生日の少し前に、「今年は贈り物の代わりに、お母さんの若いころの話を聞かせてほしい」と伝えておきます。理由も一言添えます。「ちゃんと聞いたことがなかったから」「孫にも伝えたいから」と言えば、親は自分の話が求められていると受け取れます。
聞きたい話題もいくつか伝えておくと、親は思い出す時間が持てます。「結婚したころの話」「子どもが生まれたころの話」など、テーマを決めておくと話が散らばりにくくなります。親が気乗りしない様子なら、話題を変えるか、ふだんどおりの誕生日祝いにして、別の機会に改めて頼みます。
- 誕生日の少し前に「話を聞かせて」と伝える
- 聞きたい理由を一言添える
- 話題をいくつか先に伝えておく
- 気乗りしないなら無理に進めない
当日の段取り
当日は、食事やケーキでひと通り祝ったあと、落ち着いたところで話を聞く時間に移ります。場所は親が座り慣れた居間や食卓が向いています。テレビは消して、話を残したいときは録音するスマホを親の目に入りにくい位置に置きます。録音するときは、始める前に親に一言断ります。古いアルバムや結婚式の写真を用意しておくと、話の手がかりになります。
聞くときは、短い問いと相づちに徹します。「その人とはどこで会ったの」「そのときどう思った」と、出てきた言葉を拾って続きを聞きます。親が疲れる前に切り上げ、最後に「話してくれてありがとう、また聞かせて」と伝えます。家族が何人かいる場合は、聞く役をひとりに決め、ほかの人は横で聞くようにすると、親が話しやすくなります。
- 祝ったあと、落ち着いてから聞く時間に移る
- 写真を用意して話の手がかりにする
- 録音するときは始める前に断る
- 聞く役はひとりに決める
聞いた話を本の形にして返す
聞いた話は、そのままにせず、形にして親に返します。録音とメモを見返し、話の流れに沿って文章に起こします。親の言葉づかいや口ぐせは、直しすぎずに残すと、読んだときに本人の声が聞こえてきます。地名や人の名前、年のころなど、あいまいなところは次に会ったときに確かめて書き足します。
文章がまとまったら、写真と一緒に綴じて小さな冊子にします。家庭のプリンターで印刷して手で綴じても、印刷や製本をお店に頼んでもかまいません。表紙に誕生日の日付と、聞き手として自分の名前を入れておくと、いつ誰が聞いた話かが分かります。次の誕生日やほかの行事のときに渡せば、贈り物がもう一度届くことになります。
- 録音とメモから文章に起こす
- 口ぐせは直しすぎずに残す
- あいまいなところは次に会ったとき確かめる
- 写真と一緒に綴じて冊子にして渡す
毎年の誕生日に続けていく
話を聞く時間は、一度きりにせず、毎年の誕生日に続けると積み重なっていきます。今年は子どものころ、来年は働き始めたころ、その次は結婚と子育て、というように、毎年ひとつずつ話題を決めていけば、親の人生を少しずつたどることができます。去年聞いた話の続きから始めると、親も話の流れを思い出しやすくなります。
続けていくうちに、親のほうから「今年は何を話そうか」と考えてくれるようになることもあります。きょうだいや孫が加わって聞く役を交代すると、同じ話でも聞き手によって違う場面が出てきます。毎年の冊子を並べておけば、それがそのまま親の自分史になります。
- 毎年ひとつずつ話題を決める
- 去年の話の続きから始める
- 聞く役を家族で交代する
- 毎年の冊子が並ぶと自分史になる
よくある質問
親が照れて「そんな話はいいよ」と言ったらどうしますか。
誕生日の主役として話してほしい、と理由を伝え直します。それでも気が進まない様子なら、写真を一緒に見る時間にして、写真について聞くところから始めます。話を聞くことにこだわらず祝う時間を優先し、話はまた別の機会に聞けば十分です。
遠くに住んでいて、誕生日に会えません。
電話やビデオ通話でも、話を聞く時間は贈れます。前もって時間を約束し、写真を手元に用意してもらうと話しやすくなります。聞いた話をまとめた冊子は郵送で届けられます。次に会えるときに冊子を一緒に読み返すと、そこから続きの話が出てきます。
物の贈り物と組み合わせてもよいですか。
組み合わせてかまいません。小さな花やお菓子を渡して、そのあとで話を聞く時間を持つ形でも十分です。若いころに好きだった食べ物など、昔の思い出につながるものを用意すると、それ自体が話のきっかけになります。
親の誕生日に何を贈るか迷ったら、話を聞く時間を贈るという方法があります。少し前に伝えておき、当日は親を主役にして話を聞き、聞いた話を冊子にして返す。それを毎年の誕生日に続けていけば、話は少しずつ積み重なり、親の歩んできた道が家族の手元に残っていきます。